腎不全の研究
富山医科歯科大学和漢薬研究所助教授
横澤隆子(よこざわたかこ)
★茶食は水分摂取を制限される腎臓病患者に有効な健康法
1944(昭和19)年、富山県生まれ。
奈良女子大学大学院修了。
富山医科薬科大学和 漢薬研究所助手を経て、91年助教授。
専門は腎臓病学、生化学、代謝調節。
86年「とやま賞」受賞。
私たちの研究では、お茶に含まれる渋み成分・タンニンに、尿毒症の進行を抑えたり改 善する働きがあることが、明らかになりました。
尿毒症とは、腎臓の機能障害のため尿中にじゅうぶんに排泄されるはずの窒素成分が、血液中にたまって全身臓器の機能が低下する病気です。
きっかけは漢方薬のダイオウ(大黄)の研究でした。
ダイオウには何種類 ものタンニンが含まれており、腎不全における尿毒症を緩和する働きがあることがわかっ たのです。
ダイオウに含まれる薬効成分で尿毒症に効果が見られるのは、タンニンだけ。
それも、分子量の最も小さいエピカテキンガレートというタンニンが、
尿毒症に最も有効 でした。
このとき、私の頭に浮かんだのが「緑茶」でした。
緑茶に主に含まれるタンニ ンはエピガロカテキンガレートで、ダイオウのエピカテキンガレートと分子構造が非常に 類似しています。
緑茶のタンニンも、尿毒症に有効なのではないか?
と考えたのです。
腎臓障害をチェックするには、尿中の尿毒症物質の状態を調べます。
腎機能が低下してく ると、血中にクレアチニンという物質がふえ、悪化するにつれてさらにクレアトール、クレアトンヘと変わり、最終的にはMG(メチルグアニジン)という物質になります。
この過程のうち、クレアチニンからクレアトールヘ変わる反応が進んでしまうと、以後は一 気に機能が悪化し、MGまで到達してしまうというのが一般的です。
ですから、クレアチニンからクレアトールへ変化することを抑えることができれば、尿毒症を改善し、抑制す ることができるわけです。
まず動物実験で、緑茶のタンニンが、慢性腎不全に伴うさまざまな尿毒症物質のうち、最終物質であるMGの体内での生産を抑制する働きがあること が判明しました。
この結果を元に、富山市内の人工透析の専門病院の協力を得て、デー 夕の作成を開始したのです。
人工透析とは、人工の装置を用いて患者の血液を透析し、本来腎臓から排泄されるべき有毒物質を除去する治療法です。
試験は五○人の透析患者さんの協力を得て、緑茶タンニンを二○○ミリグラム含有するゼリー(患者さんによってはカプ セル)を一日に二個、六カ月間摂取してもらい、クレアチニンとMGの数値変化を追って みました。
その結果、緑茶タンニンの摂取開始から一カ月で、クレアチニン・MG双方 とも数値が低下し始め、期間が長くなるにつれて効果が顕著になりました。
また、緑茶タ ンニン摂取前の数値の高い患者さんほど、摂取後の低下の幅が大きい、ということもデー タに現れました。
★人工透析の回数が減る可能性も!?
現在慢性腎不全による人工透析患者は全国で一○万人を超え、毎年七○○○~八○○○ 人ずつふえているそうです。
透析を受けている患者さんの悩みや苦痛には、たいへんなものがあります。
週三回受けている透析の回数を二回にするだけでも、患者さんにとっては 大きな朗報になるはずです。
緑茶タンニンがその役割を担えることは、私たちの研究結果 から見ても確実と思われます。
しかし、誤解しないでいただきたいのです。透析を受けているような
腎臓病の患者さんは〃けっしてお茶を飲みすぎてはいけません〃。
透析患者さんにとって「水分のとりすぎは、むしろ危険」なのです。
ただ、健康な人が積極的に 緑茶を飲むことは、腎臓病の予防におすすめできます。
緑茶なら煎茶だろうと番茶だろうと、タンニン含有ならなんでも結構です。
腎臓病の患者さんなど水分摂取がままならない人には、茶葉を 刻んでふりかけにして食べる方法もあります。
茶葉を食用に加工した〃食べる緑茶〃も売られているので、こちらのほうの活用をおすすめします。
●タンニンとは?
タンニンとは、ほとんどの植物にふくまれるポリフェノールの総称の事だそうです。
タンニンはお茶の成分では有名ですが、タンニンは化学物質ではなく、
植物のほとんどに含まれるポリフェノールを、総称してタンニンと呼んでいます。