便秘を改善 三井農林藤枝食品総合研究所所長はらゆきひこ研究
★緑茶を飲むと善玉菌がふえ便の悪臭も消えて腸内環境が改善
三井農林藤枝食品総合研究所所長 はらゆきひこ
1943(招和18)年、長野県生まれ。
東京大学農学部農芸化学科卒業後、三井農林 (株)へ入社。
1980年ごろから茶の生理活性に興味をもち、茶の効用の研究・開発を 始める。
農学博士。著書に「食品工業における 科学・技術の進歩(Ⅳ)」「お茶はこんなに効く」(ともに共著)などがある。
★ほとんどの患者で便の悪臭がへった
日本も着実に「高齢化社会」へと突入しつつありますが、高齢者を介護するにあたって”下の世話”は現実的に大きな問題となっています。
寝たきり老人の大便の臭いをなんとかできないものか・・介護者にとっては、切実な関心事だと思います。
そこで、私 たちは緑茶に含まれるカテキンの消臭作用に注目し、老人介護に応用できる可能性を探る ことにしました。
調査は、静岡県下のある介護施設の協力を得て、寝たきりの高齢者に 、緑茶から抽出したカテキンを与え、その便を調べて、カテキンが腸内細菌やその腸内細 菌からできたものにどのように影響するのか調べる、というものです。
この研究の対象 になった高齢者は一五名で、平均年齢七十・三歳。全員、介護施設で一日一○○○キロカロリー の栄養を鼻から胃へ管を通して与えられていました。
その栄養液にカテキンを溶かし、 一日分三○○ミリグラムを、三回に分けて投与しました。 それを三週間継続し、カテキンを 混ぜる前の便と、カテキンを混ぜてから一、二、三週間の便、およびカテキンを混ぜるの を終了して一週間後の便、計五回分を採取して微生物分析と理化学分析を行いました。
ま た、実際に便がどのように変化するのか、介護の看護婦さんにも観察してもらいました。
すると驚いたことに、どの患者の便でも、ビフィズス菌などを含む善玉菌がふえ、大腸
菌などの悪玉菌がへっていることがわかりました。
そして、PH(酸性かアルカリ性か の度合い)は低下し(酸性になったということ)、アンモニアなどの悪臭物質が滅少しました。
この結果についても、いわゆる善玉菌がふえ、悪玉菌がへったためだと思われます 。
また看護婦さんの観察によれば、栄養液に緑茶から抽出したカテキンを混ぜている間 、二名の便でびっくりするほど悪臭がしなくなり、便の量もふえたそうです。
一日三○ ○mgのカテキンといえば、煎茶だと五杯分に相当します。
これだけの量で、このような 腸内環境の改善効果が見られたということは、特筆に値すると思います。
目下、普通食 の患者さんについても、カテキンを混ぜるとどのような結果が得られるのか調査中です。
★腸内の善玉菌をお茶が活性化!
これらの調査を通して、お茶に含まれるカテキンが、便の悪臭を少なくしてお通じをよ くすることがわかったわけですが、これに関して注目すべきカテキンの二つの作用があり ます。
まず、お茶を飲むことで口から入ったカテキンは、小腸から吸収されるのはごく 一部で、残りはほとんど大腸まで到達してしまいます(実は、小腸で吸収される一部のカ テキンが、ガンや高血圧・糖尿病・動脈硬化などの成人病予防に大いに役立っているので すが)。
吸収されずに大腸まで届いた残り大部分のカテキンが、大腸内のビフィズス菌 などの善玉菌をふやし、大腸菌などの悪玉菌をへらすのです。
よく整腸作用を目的とし たビフィズス菌などを配合した健康食品が販売されていますが、飲んだ分がどれだけ確実 に腸に届くか疑間です。
なぜなら、善玉菌を口から取り入れても、強力な胃酸で殺菌されてしまうからです。
実際、「ウチの製品は○%が大腸に届きます」というのが、善玉菌 を使った健康食品の宣伝文句になっているくらいです。
確実に届いたにしても、しょせん外部からの菌です。
もともと腸内にいる菌と不適合を起こして、下痢にもなりかねませ ん。
その点、緑茶を飲むことで得られるカテキンは、大腸内の善玉菌を自然な形で増やします。お通じも自然で、緑茶で腹を下すことは、まずありません。
次に注目されるの は、カテキンが、小腸ででんぷんを分解する消化酵索アミラーゼ(消化を促進するたんぱ く質)の働きを阻害することです。
カテキンは、たんぱく質と結びつきやすい構造をし ています。
そのため、たんぱく質からできている酵素アミラーゼに、カテキンが結合して 、でんぷんの分解が阻害されるのです。
小腸で分解されなかったでんぷんは、そのまま 大腸へと送られ、大腸内の善玉菌によって分解されます。
ゆえによい形で便が排泄されやすくなるのです。
ちなみに、カテキンがでんぷんの消化・吸収を阻害する働きは、血糖値の急激な上昇を抑えることにつながり、糖尿病を予防する効果も期待できます。
★便秘の克服に毎日お茶を飲もう
前述の研究で高齢者の便の悪臭がへって便の量がふえたというのは、緑茶に含まれるカ テキンの作用で、大腸に存在する善玉菌が活性化されたためだと考えられます。
ところ で、高齢者のみならず、若い女性の間でもひどい「便秘」で悩んでいる方が多いようです 。
ひどい便秘は、大腸ガンにもつながりかねないのでなんとか克服したいところです。
下剤などで人工的に下痢を起こす方法では、体力が消耗するばかりです。常日ごろから、 食事に食物繊維を多く取り入れ、一日一○杯以上の緑茶を飲んで、自然なお通じを心がけ てはいかがでしょうか?