アレルギー研究 静岡県立大学薬学部助教授 杉山清(すぎやまきよし)
★緑茶を煮出した緑茶風呂がアトピー、ぜんそくに効果抜群
杉山清(すぎやまきよし)
静岡県立大学薬学部助教授
1950(昭和25)年、静岡県生まれ。
静岡薬科大学製薬学科卒業後、同大学院にて薬 学博士号取得。
米国ピッツバーグ大学、ノースウエスタン大学でも教鞭をとる。薬剤師でもある。
★防御反応の暴走がアレルギーの原因
近年、花粉症・アレルギー性鼻炎・気管支ぜんそく・アトピー性皮膚炎などアレルギー による病気で苦しむ人がふえています。
国民の約三分の一が、なんらかのアレルギー症状にかかっている、という厚生省の調査結果もあるほどです。
細菌や花粉、ダニなど、元 来人体にない異物が体の中に侵入すると、人体はそれに対抗する成分(抗体、リンパ球な ど)を作り出して異物を撃退しようとします。
これを免疫反応といい、普通、人体には 有益な結果なのですが、反応が暴走すると有害な作用を引き起こすことがあります。
免疫 反応のうち、人体に有害な反応をアレルギーといい、先ほどの花粉症やぜんそく、アトピ ー性皮膚炎などは有害な免疫反応によって引き起こされるアレルギー症状なのです。
アレ ルギーは、反応の様式から四種類ありますが、主に問題となっているのはⅠ型とⅣ型の二 つのタイプです。
I型は、簡単にいえば体内にダニや花粉などの異物(抗原という)が 侵入したことによって、肥満細胞という細胞から種々のアレルギーを引き起こす原因物質 (ヒスタミン)が放出されるために起こります。
このアレルギーは、抗原が体内に侵人 してから数分以内に起こるものなので、即時型アレルギーとも呼ばれます。
アレルギー性 鼻炎、じんましん、花粉症、気管支ぜんそくなどがI型アレルギーです。
一方、Ⅳ型アレ ルギーは、化学薬品や衣類の繊維などが抗原となるものです。
Ⅳ型では、本来は体を守る ために異物を攻撃する役割のT細胞という細胞が、アレルギー反応を引き起こします。
このアレルギーは抗原の侵入から症状が出るまで二四~四八時間かかるので、遅延型アレ ルギーといわれます。
化粧品かぶれやアクセサリーなどによる金属かぶれ、下着や靴下の ゴムが当たる部分がかぶれる接触性皮膚炎はⅣ型アレルギーです。
ところで、現代病と もいわれるアトピー性皮膚炎は、このI型とⅣ型がいっしょになった混合アレルギーだと 考えられています。
★アレルギーに有効な緑茶のカテキン
緑茶がアレルギー性の病気に効果があるらしいということは、江戸時代の医師・人見必 大による「本朝食鑑』という書物でもすでに記されています。
「煎茶に塩を少しばかり加 えて、頻繁に目を洗うと、はやり目によい」などと書かれ、あせもにも効くなどと述べて います。
これにヒントを得た私は、緑茶がアトビー性皮膚炎にも有効なのではないかと 考え、さっそく、ラット(実験用シロネズミ)を使った実験を行ってみました。
前述の ようにアトピー性皮膚炎はI型とⅣ型の混合型アレルギーですから、症状を改善するため には、それぞれの原因となるI型でのヒスタミンと、Ⅳ型でのT細胞の両方に有効に作用 することが必要なわけです。
そこで、まず緑茶が花粉症などのI型アレルギーに効くか どうか、観察しました。
実験では、ラットに種々の濃さの緑茶の抽出液を飲ませたうえ で、一時間後にアレルギーを引き起こす物質(抗原)を注射し、その反応を調べました。
その結果、緑茶がI型アレルギーを抑制することがはっきり観察されました。
たとえば 、ラットに体重一キロあたり約一二○ミリグラムのお茶抽出液を与えた場合、アレルギーは五 ○%も抑えられたのです。
この量は、人間が飲む量に換算すると、通常のお茶の約一○杯 分に相当します。
このお茶の抽出液によるアレルギー抑制効果は、アレルギー治療によく 使われる抗アレルギー剤とほぼ同じでした。
そしてこの効果は、お茶の渋み成分である カテキン類、とくにエピガロカテキンガレート(EGCG)と呼ばれるカテキンが、ラッ トの肥満細胞からのヒスタミンの放出を抑制するために起こっていることがわかりました 。
アレルギーの治療によく使われている抗ヒスタミン剤は、あくまで肥満細胞から放出 されたあとのヒスタミンを抑える薬であるため、眠気を起こす副作用があります。
花粉症 の薬などを、運転時に飲まないようにという注意があるのはこのためです。
一方、緑茶に 含まれるカテキンは肥満細胞からヒスタミンが出ること自体を阻止するので、眠くなるこ とはありません。
次に、接触性皮膚炎などのⅣ型アレルギーに対しても緑茶が有効なの かどうか、調べてみました。
マウスの耳にアレルギーを引き起こす原因となる化学物質を ぬりつけると、耳が赤く腫れ上がる激しい接触性皮膚炎を起こします。
しかし、緑茶を 飲ませたマウスのグループでは、その腫れが著しく抑えられたのです。
緑茶の飲量は人間 に換算した場合、やはり一○杯程度でした。
さらに、皮膚炎を起こさせたマウスの耳に 緑茶をつけておくと、皮膚炎が抑えられるという結果も得られました。
これらもやはり、 緑茶に含まれるカテキンがT細胞の生成を抑制し、Ⅳ型アレルギーを起こすのを阻止した ためです。
★飲むなら毎日一〇杯緑茶風呂も効果抜群
以上の実験結果から、緑茶がI型とⅣ型の面方のアレルギーに効くことが明らかになり ました。
ということは、I型とⅣ型の混合型であるアトピー性皮膚炎を改善する可能性も あるということになります。
もちろん、動物実験の結果をそのまま人間におき換えるこ とはできませんが、緑茶が人のアトピーなどにも確実な効果をあげているという体験の報 告が、現実にたくさん寄せられてきています。
では、アトピー性皮膚炎の改善のために 、毎日どのくらいの緑茶を飲めばいいかということですが、動物実験の結果から考えると 、普通の濃さ程度のものを一○杯くらい飲んでいれば、効果が現れるはずです。
また、 一回に二○~四○g程度の緑茶をお湯に煮出した「緑茶ふろ」で入浴したり、緑茶煎液を つけたガーゼで患部を拭いたりするのも、非常に効果が高い方法です。
アトピーのほか、 あせもや水虫まで治ったという例も多数あります。
最近では、緑茶のもつこの力に注目 したメーカーが、カテキンを繊維に織り込んだシーツなどを開発し、一部の病院などで使 われて好評を博しているようです。
将来的に衣服などにも利用されるようになれば、肌 の弱い人にとっては朗報となるでしょう。